保温・加熱用途
ヒートポンプの保温用途としては、塗装前の表面処理である脱脂、湯洗、化成槽の保温や、食品材料の保温などに多く利用されています。
「加熱方式」は、加温槽やワークからの放熱分を補う保温(主に循環加温)であり、導入形態の特徴としては、ヒートポンプを加熱対象(洗浄槽など)に近接して設置し、蒸気供給ロスや設置工事費の削減を図る場合が多く見られます。
また、空気熱源ヒートポンプが屋内に設置される場合は、ヒートポンプから発生する冷風によって作業環境の改善や空調負荷の低減効果も期待されています。
設計ポイントとして、「必要加熱容量の算定」「 加熱方式の選択」「 ヒートポンプ容量・台数の選定」について紹介します。
主な洗浄、保温、加熱用途 | |
◎塗装前処理(脱脂、湯洗、防錆、化成) ◎各種部品洗浄 ◎メッキ槽保温 ◎食品材料の保温 ◎チョコレートの湯煎 |
必要加熱容量の算定
燃焼式給湯システムとヒートポンプ式給湯システムの設計手法の違い
燃焼式とヒートポンプ式では設計手法が大きく異なり、燃焼式の容量選定が時間最大給湯負荷(ピーク負荷)をベースに設計されるのに対し、ヒートポンプ式は日給湯負荷と時刻別給湯負荷からヒートポンプ容量や貯湯タンク容量が選定されます(下図参照)。
【計算式】 必要ヒートポンプ容量[kW] =日給湯負荷[kWh/日] ÷ヒートポンプ運転時間[h]
必要加熱容量の算定
導入検討を行う場合は、まずは加熱対象の必要加熱容量について算定することが必要となりますが、実測データがない場合は、ある程度の推定も含め加熱容量を算定する必要があります。
洗浄槽の場合を例に、いくつかの算定方法について紹介します。
①加熱対象のドレン量からの算定方法
加熱に使用している蒸気圧力[MPa]、ドレン量[L/h]、ドレン温度[℃]がわかる場合には以下の方法で算定ができます。
【計算式】
必要加熱能力[kW]=(供給蒸気のエンタルピ[MJ/kg]ードレンのエンタルピ[MJ/kg])×ドレン量÷3.6×安全率
②ポンプ循環流量からの算定方法
洗浄液の往還温度差[℃]、ポンプ循環流量[L/min]が分かる場合
【計算式】
必要加熱能力[kW]=洗浄液の往還温度差×ポンプ循環流量×60分÷860×安全率
※洗浄槽の放熱を加味していないので、加算する必要があります。
③ワーク負荷からの算定方法
ワーク1単位の重量[kg/サイクル]:A、処理時間[秒/サイクル]:B、ワーク比熱[kJ/kg℃]:C、周囲温度[℃]:D、洗浄液温度[℃]:E が分かる場合
【計算式】
1時間当たりの処理量[kg]=A×60秒÷B×60分
必要加熱能力[kW]=(E-D)×処理量×C÷3600×安全率
※洗浄槽の放熱を加味していないので、加算する必要があります。ワークの吊り具やパレットの熱量も考慮が必要な場合があります。
④現行熱源で操業中の槽内温度低下からの算定方法
現行熱源での加熱停止温度[℃]:A、同左加熱開始温度[℃]:B、停止から開始までの時間[分]:C、タンク容量[L]:D が分かる場合
【計算式】
必要加熱能力[kW]=(A-B)×D ×60分÷C ÷860×安全率
加熱方式の検討
ヒートポンプによる加熱方式としては、熱交換器を介して加熱を行う「間接加温方式」と、溶液を直接ヒートポンプで加温する「直接加温方式」があります。
熱交換器を介するとヒートポンプ出口温度を5~10℃高くする必要があり、また、ポンプ動力なども必要となるため、加熱効率、付帯設備コスト、設置スペース面で、直接加温が有利となりますが、まずは、溶液の種類によって、直接加温の適用可否を判断する必要があります。
また、熱交換器を加温槽内に設置可能な場合は、設置スペース、経済性で有利となる場合があり、選択肢の一つとなります。いずれにしても、加熱方式の選択は、既設洗浄設備との協調が重要となります。
用 途 | 概 要・特 徴 | 注 意 点・ポ イ ン ト |
湯 洗 | 用 途:荒洗浄または仕上げ洗浄、低温殺菌等 温度帯:40~70℃ 方 式:シャワー方式・漬け洗い |
◎補給水がある場合には注意(補給水負荷が大きい場合あり) ◎仕上げ洗浄は純水を利用する場合あり 純水の場合SUS品でも腐食の可能性あり |
脱 脂 | 用 途:洗浄 等 温度帯:40~70℃ 方 式:シャワー方式・漬け洗い |
◎洗浄液はアルカリ系が多い(pH8以上)ため、 できればSUSを使用すること ◎pH6以下ではSUSでも腐食の可能性が大きいため、 間接加熱方式とします |
化 成 | 温水による間接加熱が多い 温度帯:35~55℃ |
◎析出(詰り)傾向が高いので、直接加熱はNGです |
メッキ | 強酸が多い(pH3程度) 樹脂熱交換器やチタン熱交換器の採用が 多い |
◎析出(詰り)傾向が高いことと同時に腐食の傾向があります ので、間接加熱方式とします。 |
ヒートポンプ容量・台数の選定
ヒートポンプ容量・台数を選定する場合、操業前の立上げ時と生産稼働時では条件が大きく異なり、立上条件で台数選定すると、使用台数が増える傾向になります。 従って、手順としては次の流れで選定します。
①ライン稼働時の負荷を算出(必要加熱能力より求めた数値) |
②季節により負荷を想定し、冬期のみ必要台数が極端に多い場合などはハイブリット方式の採用を考慮する。 |
③選んだ台数での立上想定時間を算出。 NGの場合は、立上負荷に見合った台数を選定するか、ハイブリット方式の採用を検討する(この場合、冬期のみが達成できないケースが多い)。 |
各ケースで経済性や省エネ性等の比較を行い、最終的な容量・台数を選定します。
ヒートポンプの2つの加熱方式
ヒートポンプの加熱方式は、保温用途などに使われる「循環式加温」と、洗浄用途などに使われる「一過式加温」の2つの方式があります。
ヒートポンプは冷媒の種類によって、得意な加熱方式が異なるため、機種選定の際には注意が必要です。
循環式加温 | 一過式加温 |
保温用途のように少ない温度幅で加温する方式 ◎洗浄槽の加温、保温 ◎食品原料の保温 ▶フロン系冷媒が得意 |
給湯用途のように給水などを大温度差で昇温する方式 ◎給湯 ◎洗浄 ▶CO2冷媒が得意(エコキュートが代表) ▶フロン系冷媒でも可能 |