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廃熱回収のポイントと注意点

廃熱回収のポイントと注意点

廃熱源と熱交換器の選択

ヒートポンプを有効に機能させるためには、いかに上手に廃熱を活用するかが重要なポイントになります。そのためには、まずは、工場から排出されている廃熱が何処にあるかを把握し、その廃熱に合った適切な熱交換方式を選択することが
重要です。

熱交換器の選択にあたっては、廃熱源の「温度」「流量」「流体の性状」「スケール固着の有無」「腐食性」「工場・設備の状況」など、いくつかの判断要素があります。
以下、廃温水、廃ガスからの熱回収の注意点を紹介します。

  主な廃熱の発生箇所
  ◎排水処理設備(温水) 
◎冷却塔の戻り温水 ◎洗浄後の温水 
◎乾燥炉、熱処理炉からの排気
◎ボイラー排ガス、ドレン、ブロー水
◎食品調理後の排温水、排気

 

廃温水からの熱回収の注意点

 排水中には、髪の毛、食物残渣、砂、有機物などの多種多様なスケールが混在しており、廃熱回収では熱交換器の閉塞に最も注意が必要です。また、熱交換器は運転中にスケール分の付着により性能低下が起きるので、定期的な開放点検・洗浄が必要となります。とはいえ 洗浄の頻度は極力少なく、かつメンテナンスがしやすいタイプの熱交換器を選定する事が大切 です。

《 熱交換器の機種選定 》

 工場で広く使用されている熱交換器としては「プレート式」「シェル&チューブ式(多管式)」「スパイラル式」の3種がありますが、各々の機種には一長一短があるため、表に記載の特徴と得意用途を参考にして頂きたい。

 

分 類 特 徴 得意とする
廃熱回収用途
プレート式
熱交換器
◎安価で高効率かつ小型。 ◎汚れやすく閉塞しやすいため、排水、
スラリー液などには不適だが、きょう雑物の無い流体には適する。
◎安定運転のために予備機を設置し、交互に切替え運転を行うケース
が多い。
◎プレートを分解しての清掃点検が可能だが、機器が大きくなると
メンテナンスが煩雑になり、配管も複雑になるため、イニシャル
コスト、ランニングコスト共に嵩むのがネック。
◎食品プラントの廃熱回収
◎空調、化学プラントの
清浄な流体からの熱回収
シェル&チューブ式(多管式)
熱交換器
◎歴史が古く、最もポピュラーな熱交換器。大型だが、高温、高圧の
条件下でも設計可能。
◎閉塞を起こしやすいので、繊維くずなど含む流体の場合は注意が
必要。
◎化学、製紙、食品、医薬な
どほぼ全てのプラントに採
用されている
スパイラル式
熱交換器
◎排水系や閉塞を起こしやすい流体を扱う場合に用いることで、高効
率で長期間安定運転が可能となる。多管式に比べて小型設計。
◎伝熱板の隙間をらせん状に流れるので、流体中の汚れを掻き上げな
がら旋回し汚れを除去する「自己洗浄作用」が働く。
◎予備機の設置も不要でメンテナンス頻度も少なく済むため、ランニ
ングコストの大幅な低減が可能。
◎下水汚泥、工場排水など
汚れの激しい流体からの
熱回収
◎化学、製紙、繊維など
各種工程の汚れた流体から
の熱回収

 

《 熱交換器の材質選定 》

熱交換器の機種選定と共に重要な要素は材質選定です。現在広く一般に使用されている金属にはオーステナイトステンレス鋼(SUS304、SUS316など)がありますが、例えば流体中の塩化物や硫化物により「すき間腐食」や「応力腐食割れ」を起こし熱交換器の破損だけでなく、内部流体による工場の汚損を引き起こす可能性があります。そのため熱交換器を選定する際、流体中の液組成、PHなどを測定し、経済面、運用面共に最も最適な材質を見極めることが重要です。

 熱交換器の材質として一般的に用いられる材料としては、SUS304、SUS316、SUS316Lなどがあり、海水などにはチタンを用います。最近は経済面を考慮して安価な樹脂製(テフロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)の熱交換器も登場しており、盛んに技術開発が行われています。

 

廃ガスからの熱回収の注意点

 燃焼排ガス中には、腐食成分であるNOx、SOxが含まれている場合があります。これらの成分を含むガスを冷却して熱回収を行った場合、結露水中に硝酸、硫酸が発生し金属を腐食させることがあり、酸露点問題となっています。

 一方で酸露点を通過して徹底的に熱回収を行うと莫大な潜熱を得ることができ、メリットが多いのも事実です。酸腐食のリスクがある場合、絶対に腐食させてはいけない現場なのか?、それとも投資回収メリットがあれば、多少腐食リスクがあってもメンテナンスで対応できればいいのかという考え方で、廃熱回収の選択は大きく異なります。

 そもそも熱交換器は絶対壊れない構造というものはありませんが、腐食リスクはその考え方で材質選定に選択肢がでるため多くの可能性があるのも事実です。

 都市ガス、LPガスの燃焼排ガス中にもNOxがあり、微小ではありますがSOxも含まれています。従って長期的にみるとSUS316でも孔食リスクは存在することになります。しかし燃焼時に多くの水分も発生するために、潜熱が大量に回収できることがメリットとなります。一方、A重油では、大量のSOxが含まれており、水分は都市ガスの半分以下であるため潜熱メリットは少ないものとなります。A重油廃ガスでは、SUS316だけでなく腐食に強いと言われているチタンでも腐食してしまう事例があるため、廃熱回収をする場合には都市ガスやLPガスに燃料転換以後に検討することが妥当と言えます。

 これらの排ガスを熱回収する熱交換器は、極力スキマ腐食を防止するために、カシメ構造のフィンチューブは避ける必要があります。さらには、排ガスの抵抗が大きくなると動力を必要としてしまうため、低圧力損失設計を行うことも大切です。しかし低圧力損失設計と高効率化は相反することになる場合があるため、気体を相手にする排ガス熱回収熱交換器は、難しい設計環境といえます。

 チューブタイプの熱交換器は全般的に圧力損失が大きくなる傾向であるため、最近では排ガス専用設計のプレート式熱交換器も登場し、低圧力損失、大伝面、高効率の両立、モジュール構造での簡単な交換対応も可能となるアイテムが登場しています。